よしおイチゴ

あるところに、イチゴが大好きなよしおがいました。
床に寝転がって教育テレビを観ながら六十個のイチゴを食べた後、四つん這いで部屋中をうろうろしながらイチゴ味の歯磨き粉で歯を磨くのがよしおの毎日の日課でした。
よしおはイチゴが余りにも好き過ぎるので、とうとうイチゴしか食べられなくなってしまいました。


お父さんが心配して、
「よしお、イチゴばかり食べていないでご飯や野菜もちゃんと食べなさい。」
と言うと、よしおは怒ってお父さんの顔を中指と薬指と小指の爪で引っ掻きました。
何故かと言うと親指と人差し指はイチゴを持ったままだったからです。
「ぐああああ痛い!痛い!よしお!父さんはお前をそんなバーバリアンに育てた覚えは無いぞ!」
「うるさい!ボクにはイチゴしか無いんだ!」
お父さんは、イチゴの食べかすに塗れたよしおの汚い顔を見ながら、もう自分の息子は居なくなったのだと自身に思い聞かせ、よしおの部屋を出ました。足の裏にこびり付くイチゴの潰れたやつがとても不快です。


お母さんが、風呂場の隅で泣きながら足を洗うお父さんを見付け、一体どうしたのかと尋ねました。
「あ、あいつはよしおなんかじゃない。あのよしおは、くそよしおだァー!!!」
そう叫んだお父さんは、足を洗っていた洗面器の水を拳で力いっぱい叩いて立ち上がりましたが、泣いていて力が抜けたのと、さっきまで座っていたのに突然立ち上がったことで立ち眩んだのと、両足がこむら返りになったのとが重なってバランスを崩し、湯船にポチャーンと落ちて頭をゴチャーンと打ちました。
お父さんの泣きじゃくり方が余りにも物凄いので、ただ事ではないということがお母さんにはすぐにわかりました。


心配したお母さんは、様子を見によしおの部屋に行きました。
「よしお、またお父さんを泣かせたの。お父さん、あなたの名前を呼びながら泣き叫んでいたわよ。」
床に寝転がってテレビを観ていたよしおの顔がこちらを向きました。
「うふふふふふふふふ・・・よしお?誰の事だそれは?ボクはイチゴだ!イチゴと呼べ!もしくはアメリカン風にストロベリーって呼んでくれ!!ははは知らねーよ誰だよよしおって!バカ言うなギャーハッハ!!!ボクは華麗なるストロベリーだぜ!!!!!ヒャッホー素敵ィー!!!!!」
よしおはそう言ってバンザイして立ち上がって白目をむき、テレビの着ぐるみの踊りを真似し始めました。
その姿を見たお母さんは、ああ確かにこれはくそよしおだなと思い、踊り狂うよしおを一瞥してよしおの部屋を出て行きました。


翌日、よしおは二人の警官に両脇を固められ、刑務所へ連れて行かれました。
自分をイチゴと思い込んだよしおは、イチゴの格好をしてスーパーのイチゴ売り場のイチゴを耳に詰め込み、
「今お前たちが手に取っているストロベリーはニセモノだ!ボクこそが本物のストロベリーなんだぞ!!見ろっ!真実のストロベリーの姿、とくと目に焼き付けておくが良い!!!!」
などとわけのわからない演説を延々と九時間も続けたので、見かねた店長が「うちの店にイチゴの変態が出た」と警察に通報したのでした。
パトカーに連行される際、よしおは焦点の定まらない目でこんな事を叫んでいました。
「ちきしょうお前ら絶対イチゴジャムにしてやるからな!!!!」


よしおが捕まってから丁度一週間後、よしおが住んでいた町では恐ろしい事が起こっていました。
水道の蛇口をひねっても、水が出ないのです。代わりに出てきたのは、イチゴジャムでした。
信じられないことですが、その町にだけイチゴジャムの雨が降り、蛇口からはイチゴジャムが出、川の水もプールの水も、ありとあらゆる水がイチゴジャムに変わってしまったのです。


こうなっては大変です。
顔や体を洗えば洗うほどベタベタして甘い匂いが消えなくなってしまい、何箇所もハチに刺されます。町の人口の半分がハチに刺されて死んでしまいました。
辛うじて生き残った半分の人たちは、この恐ろしい町を抜け出そうとしましたが、既にイチゴジャムを大量に摂取していたせいか、全員気が狂って「イチゴ」しか言えなくなって死んでしまいました。よしおの呪いです。