二の腕ホットドッグ

ある朝、溶彦(とけひこ)がいつものように出勤すると、そこにいつものオフィスはなかった。
社員はみな氷の椅子に腰掛けて氷のデスクに向かって氷の中に液晶とキーボードが埋め込まれた氷のパソコンとにらめっこをしている。
溶彦は同僚に話しかけた。
「おはようございます。なにをしているのですか。」
「みんなでクールビズをしているのです。溶彦君も一緒にやりましょう。」
「嫌です。燃やしてしまいます。」
溶彦はゆらゆら揺れながらカバンの中から火炎ビンを取り出した。
「良いお天気ですねぇぇえぇえぇぇ!!!!!!!!!!!」
溶彦は更にゆらゆら揺れながら火炎ビンを同僚めがけて投げつけた。
「ギャーッ!!!!!!!!!」
同僚は溶けた。
「ひとぉーつ。」
溶彦は死のカウントを開始し、額まで届く長い舌を見せびらかしながら次の標的に視線をやった。
「と、溶彦!落ち着け!クールビズは素晴らしい!こんな時こそクールビズだ!頭を冷やすんだ溶彦!」
「嫌です先輩。溶け散れ。」
溶彦はさっきよりももっとゆらゆら揺れながらカバンから火炎ビンを取り出した。
「いやーーー本っ当に良いお天気だなァーーーー今日は!!!!!!!!!!」
溶彦はもっともっとゆらゆら揺れながら火炎ビンを先輩に投げつけた。
「ギャーッ!!!!!!!!!!!!!!!!」
先輩は溶けた。
「ふたぁーつ。」
二回目の溶彦カウントがなされた。
「うわぁぁぁあぁあぁああああああ!!!!!!!!!」
遂にパニックになった社員達はめちゃくちゃに逃げ回った。
しかし床にもクールビズが適用されていて完全にアイスバーンなのであちこちで転倒しまくる。
溶彦が投げた火炎ビンのお陰で程よく溶けて余計に床が滑りやすくなっていた。
「なんということだ!つるつる滑って部屋から出られない!だ、誰か出られる奴はいないか!?はやく助けを…ツルッベシャ」
「課長!!!課長ぉ~!!!!!!!ちっくしょー!!!!!!!」
「だ、ダメだぁ~!何とかドアまで滑って来れたけど手がかじかんでノブが回せないよォ~!あ、あぶぶばばぶばーぴぴっぴょー!!!!!」
「バッキャロー!ハゲだからって頭で滑るこたねぇだろ!凍傷で脳がやられちまってんじゃねーか!」
溶彦は何だか飽きてきた。
小学生の時にスケートクラブに三日間所属していた溶彦にとって、この程度のアイスバーンはどうってことなかった。
カバンの中にはまだあと九本の火炎ビンがあるが、飽きてきたので社員達はほっといていつも通り仕事をすることにした。
騒ぎを聞きつけた社長が血相を変えて、ドアをぶち破らなくても開くのにぶち破って入ってきた。
「何をしている!」
途端、九本の火炎ビンが社長のくわえていた九本の葉巻に引火して一斉に爆発した。
社長が溶けて、社員達も溶けて、会社も溶けた。
九ヶ月後、溶彦はフィギュアスケートの選手になり前人未到の九十九回転を披露し、見事世界チャンピオンとなった。
更に九ヶ月後、溶彦は百回転を達成した。
だがすぐに摩擦熱で溶けてなくなった。
溶彦は溶けた。

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